アルゼンチンでは1976年のクーデターで樹立された軍事政権により、活動家や反対派の市民など3万人以上の人達が軍部と政府に拉致され、監禁・拷問の末殺害、または行方不明となったそうです。
舞台は1983年のアルゼンチン。7年に渡る独裁軍事政権の統治が終わり、新聞には人権侵害を行なっていた軍の高位将校が訴えられる見出し、ラジオからは子供や孫を軍隊に無理矢理奪われた母親達のデモのスピーチが流れてくるような変動の時代。
軍人であった父親の看病を続ける女性の目に映るのは…。
街の喧噪とは裏腹に振り子時計が淡々と時を刻む薄暗い部屋で、ルーティーンと化した日常を送る初老の女性を描いたハイクオリティーなストップモーション・アニメーション作品『PADRE』(父)です。
丁寧に作られた人形やセット、細かい表情や動作、緊張感のある表現が素晴らしい作品です。
PADRE
人形の動きが滑らかで小道具もつなぎ目などわからないので、最初フルCGかと思いました。
CG合成やデジタル処理もされていますが、基本はストップモーションで撮影されています。
下のメイキング映像を見ると撮影方法がわかりますよ。
部屋に飾られた軍人の父親との写真が女性の半生を描いています。大統領と並んでいる写真や飾られた勲章から位の高い軍人だったのでしょうか。かつては良い暮らしをしていたと思われます。
軍事政権に対して民衆の不満が高まる中、父親の看病を続けながら次第に固執し人目を気にしながら引きこもり、父亡き後も振り子時計に支配されているような、社会の変動に抵抗するかのように変わらない(変えられない)生活を送る女性の心の闇が見事に描かれています。
最後の映像は行方不明者の母親達を中心に結成された「五月広場の母たち」という団体の抗議活動のようです。軍事政権下では大々的に抗議活動をすると逮捕されてしまうため白いスカーフを被って無言の抗議をしていたそうです。
アルゼンチンのアニメーション映画監督 Santiago Bou GRASSO さんが3年間も掛けて制作された作品です。
もともと2Dアニメーターとしていくつか作品に携わっていたようですが、今回のストップモーションアニメーションでは、人形やセットの制作と撮影をほぼ一人で行なっているそうです。
Santiago Bou GRASSO さんは1979年生まれだそうで、ちょうどこの軍事政権の頃に生まれた方なんですね。
この作品は数々の映画祭で上映・受賞されています。
第18回文化庁メディア芸術祭(2014)でもアニメーション部門で優秀賞を受賞されています。この芸術祭の時にセットや人形も展示されていたようです。
▶︎ 文化庁メディア芸術祭 歴代受賞作品 第18回 PADRE
こちらはメイキング映像です。
PADRE - short film making of
すごいですね。人形もきっちりと設計され、花瓶の模様とかドアの鍵とか細かい所まで本格的に作られてます。全体のウェザリングとか良いです。滑らかな動作は機械仕掛けのようです。マッチの火やお盆のコップの水の揺れなどは実際に人で撮影して合成しているようです。振り子時計の中身はCGなんですね。
PADRE の Facebookページです。
▶︎ Padre – short film [facebook]
Santiago Bou GRASSO さんのスタジオ、opusBou animación のサイトです。アニメーションの顔をクリックすると動きますよ。(※効果音付)
▶︎ www.opusbou.com.ar